はじめに
BHCはHCHとも言い、国内で最も消費された有機塩素系殺虫剤の一つです。その有毒性や難分解性などが問題となり、国内では1971年に使用が禁止されました。国際的にもPOPs条約によって使用等が規制されています。今回はBHCが開発されてから使用等が禁止されるまでをその毒性と共に紹介します。
BHCの開発から使用
BHCはイギリスのM.FARADAY(1791-1867)により最初に合成され、その殺虫効果は1941~42年頃に見いだされました。日本では、1949年に農薬として登録されました。水稲の重要害虫に効果があったため使用が広まっていきました。最終的にはノネズミ駆除以外であればBHCが使用される程になり、水田だけでなく、園芸や森林でも利用されました。国内での散布面積は九州地方が特に広かったとされています。また、農薬だけでなく、疥癬(かいせん)の治療薬の軟膏としても使用されていました。
BHCの毒性
主に殺虫剤として使用されたBHCですが、殺虫効果があり即効性の接触毒作用があるのは8種類の異性体のうちγ-BHCだけです。なお、γ-BHC 99%以上の純度のものをリンデンといいます。殺虫剤には主成分となるγ-BHCの他にα-BHC、β-BHCおよびδ-BHCが副生成物として含まれていました。このうちβ-BHCは安定構造のため生体内に多く蓄積し、慢性毒性は異性体中で最も強いとされています。BHCは脂溶性で吸収されると特に脂肪組織や肝臓、腎臓等によく分布、蓄積されます。急性中毒の症状としては、頭痛、めまい、吐き気、嘔吐などを引き起こし、重症の場合は呼吸困難、チアノーゼを起こし死亡するケースもあります。
BHCによる汚染問題
このような毒性や残留性が1960年代から問題視され始め、日本では1969年に全国の牛乳がBHCで汚染されていることが判明し大問題となりました。さらに西日本を中心に汚染された牛乳や牛肉を摂取した人の母乳からBHCが検出され人体汚染も発覚しました。結果、1971年に農薬としての登録が失効しました。国際的にもPOPs条約により製造、使用、輸出入の原則禁止などの規制がされています。